トークイベント【Portlandを歩いて】

イベント 2016.11.05

今回は、9月15日に仙台・本町でおこなわれたトークイベント『Portlandを歩いて』についてのレポートです。

「全米で住みたい街ランキング1位の街」として我々日本人の間でもよく知られるようになった、
アメリカ西海岸に位置する人口約60万人の小さな街、ポートランド。

最近では、そのリベラルなカルチャーがつくりだす暮らしの魅力から、
ポートランドの住文化は日本でも多くの注目を集めています。

そんななか、同じ地方都市として、ここ仙台のまちづくりにポートランドから何かヒントをもらえないだろうか!
という思いつき(?)のもと、
今回、仙台のまちづくりに並々ならぬ情熱をもった7名の有志たちが、8月末から約1週間、実際に現地を訪れてきたそうです。

ふしぎなご縁で集まったメンバーは、建築家であり東北芸術工科大学教授を務める竹内昌義さん、
仙台でヘアサロンやコーヒーショップを手掛け、自ら経営している本郷紘一さん、
そして公務員という立場から仙台のまちづくりに参画してきた洞口文人さん、福田圭佑さん、大平啓太さんのお三方に加え、
東北工業大学の大学院で建築学を専攻する学生の豊島さん、山崎さんの計7名。

フットワークの軽さこそ共通すれど、職も経歴もほんとうに様々な7名の方々が、
各々の視点からポートランドのまちづくり、そして仙台の街の目指すべき方向性について感じた生の意見をぶつける場として、
本町の第三志ら梅ビルの一室をお借りして公開トークイベントが企画されました。

住まい手の、暮らしに対する自由の実現を「リノベーション住宅の紹介メディア」として応援してきたSendai Scaleとしても、
これは大変興味深い議題ですね。

それでは、いったいどんなトークイベントになったのか、レポートしたいと思います。

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まずは、公務員という立場から仙台のまちづくりを推進してきた洞口さん、福田さん、大平さん(写真右から順)の3名によるプレゼンテーションです。

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お話は、ポートランドのアイコンとなって久しい白鹿の看板(White Stag Sign)と共に始まります。

ダウンタウンのはずれ、まず洞口さんの印象に残ったのは、
メインストリートにいろんなアクティビティが染み出しているところだそう。

定禅寺通りのような緑豊かな歩道沿いにバスケのゴールが置いてあったり、ベンチに腰掛けて地元の人達がコーヒーを飲んでいたり…

車道はせまくして、歩道をひらく。
沿道のショップの雰囲気が外部空間に表出し、そんな空気に誘われるように人々が自然とお店に引き込まれていく、
そんなシーンが容易に想像できます。

周辺に対して開かれているのは、中心部の街並みだけではありません。
洞口さんが気になったのは、やや郊外にあった小学校の使われ方だといいます。

「校庭と公園の境目が分からなかった。」という言葉が象徴するように、
学校が地域に対してとことん開かれているそう。

セキュリティの観点から、厳重に塀で校庭を囲ってしまうような日本の学校のつくりからは、
俄に想像がつきませんね。

このように、公共空間が外に対して開かれているポートランド。
仙台と比べると街の公共空間の使われ方はかけ離れているように感じてしまいますが、
「目指すべき方向性としては、仙台とそう遠くない」と続けます。

というのも、ポートランドの行政機関であるPDC(ポートランド市開発局)が、市の総合計画を網羅し、
官民協同で公共空間の使われ方を考えているとのこと。

例えば、中心市街地の駐車場の歩道に面したスペースを屋台にレンタルしたり…
その主導を行政が行うことで、パブリックな場所の資産価値の向上が目指されているそうです。

「これは僕ら公務員の仕事」と語る洞口さん。
定禅寺通りも、もっと官民でコラボレートしていくことで、
ポートランドのような豊かなメインストリートをつくっていけるのかもしれません。

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つづいて、そんな中心部から車で30分ほどの郊外について。
ポートランドのカルチャーを表す言葉としてしばしば聞かれる「Local First」という言葉。

「いろんなスケールで、地産地消の文化が育まれている。」そう話す福田さん。

毎日街のどこかで開かれている直営市場「ファーマーズマーケット」や、
自家菜園の農場を細かく区画割りした「コミュニティガーデン」など、
農を介したコミュニケーションの場が、地域の人と人とをつなげる役割を果たしています。

なるほど、農業(Agriculture)をれっきとした文化(Culture)としてライフスタイルに落とし込んでいく仕組みがある訳です。

そんな住民同士のヨコのつながりを組織として取り持っているのが、「Neighborhood Association」
日本でいうところの町内会ですね。

このNeighborhood Associationを説明するのに、ある有名なプロジェクトがあるそうです。

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一見ふつうの交差点に大々的に描かれたこの素敵なペイントは、一体なんでしょうか。

これ、実は「City Repair」という、市民自らの手で行われているプロジェクトだそうです。

郊外って以外に自然に人々が集まれるランドマークのようなものがなくて、
住民が自らの手で、自然と集まれるような場所をつくるために始めたとのこと。

最初はゲリラ的に行なったがゆえに行政と一悶着あったそうですが、
住民たちと行政との話し合いによって、今では市も認める運動としてポートランドに根付いていったそうです。

大平さんが「行政が、市民の声を信じられないくらい徹底的に聞いている」と語るように、
行政がカジュアルに市民とつながって、施策をブラッシュアップしていく仕組みの一端が伺えます。

仙台のまちづくりも、一往復だけのパブリックコメントだけでなく、
このように緊密な市民と行政の関係性をもって方向付けられていくようになるといいですね。

そのためには、われわれ住民も、どうしたらこの街がよくなるか、
常日頃から考えていくことが大事なのかもしれません。

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続いては、大学院生の豊島さん、山崎さんと、本郷さん・竹内さん(写真左から順)のクロストーク。

写真を振り返りながら、それぞれの視点でポートランドをみて感じたことを話していきます。

学生のお二方が所属する東北工業大学は、八木山にキャンパスを構えています。
八木山といえば、比較的緑も多く、ベニーランドや動物公園といった娯楽施設も多くありますね。

そんな彼らがポートランド州立大学を案内され、自身の通うキャンパスと比較して思ったのは、
やはり周囲への開き方だといいます。

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「空間のあいまいな使われ方に、新しい用途の余地がある。」と豊島さんがいうように、
ひとつひとつの施設が独立して存在するのではなく、周囲と混ざり合って連携する。

そういったプログラム同士の曖昧な境界の上に、新しいアクティビティがつくりだされ、
上述したようなポートランド独特の文化が形成されていっているのかもしれません。

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学生二人のお話を受けて、周囲に染み出していくようなアクティビティの在り方について、
実際に仙台でコーヒーショップを運営する本郷さんらしい視点から話を盛り上げていきます。

「コーヒーを売りたかったのではなくて、コーヒーを持って歩いてほしかった。」

仙台と比べると、街ナカと周辺のローカルショップが溶け合うようなポートランドの豊かさは、
確かに浮き立ちますね。

そして話は本題に。

どうしてポートランドはできるんだろう。
どうして仙台はできないんだろう。

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そんな問いに対して、竹内さんは、
通りに座っているおじさんに「ここのコーヒーは美味しいよ」と言われ、
入ってみたら本当においしかった、というエピソードから、

「官とか民ではなく私たち、地元の力」にあるのではないかと言います。

ポートランドも仙台も、一定容積型の開発をしていて、公共に寄与すると容積率が緩和されるようなシステムも同様にある。

経済開発に対するノウハウの成熟度、行政の発言権の強弱などの差は確かにあり、
これらを埋めていくことはそう簡単なことではありませんが、
やはり最初の一歩は「みんなでこうしようよ、というビジョンに共通認識をもつこと」だと竹内さんは続けます。

どうしたら仙台は、もっと面白くなるだろう。と立ち止まって一人ひとりが考え、皆で共有し、
目指すべきベクトルを強くしていくこと。

それが一番大事な、われわれが持つべき意識なのかもしれませんね。

こうして結びを迎えた今回のトークイベントでしたが、

このイベント自体、仙台というまちのビジョンを考え、シェアしていく場として、
とても有意義な場になったのではないかと感じました。

仙台がより豊かな街に近づいていく一歩は、こうした街づくりに対する思いを共有するイベントを、
積極的に開いて拡げていく
ことに他ならないのかもしれません。

Sendai Scaleとしても、このようなイベントを記事として発信していくことで、
仙台の暮らしを良い方向に変えていけるよう、引き続き取材を続けていきたいと思います。

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佐々木瞭

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